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刊行物

『「生誕100年 松本竣介展」図録』

[カタログ/2012年発行]

-開催概要から-

そのとき画家は何を見つめていたのか

1912(明治45)年に東京で生まれた松本竣介(本名:佐藤俊介)は、少年時代を岩手で過ごし、13歳のときに病いのため聴力を失ったのち、画家を志すようになりました。1929年には上京し、舟越保武や麻生三郎ら同時代の芸術家たちと交流を重ね、ともに新時代の絵画、芸術、社会を求めて制作に励みました。1935(昭和10)年の秋には、第22回二科展で《建物》が初入選を果たし、画家としての地歩を固めます。またこの頃、松本禎子と結婚し、それを機に改姓して新たな生活をスタートさせ、同時に夫妻でエッセー(随筆)をテーマとした月刊誌『雑記帳』(全14号)を創刊。広く時代の思潮を見渡す経験を重ねてゆきました。

竣介の画風は短期間にめまぐるしく変化しつづけています。黒い輪郭線による初期の骨太の描写から、青を基調とした曲面による幻想的風景、そして線描により描き出された合成的な都会の喧騒まで、前半生には独特の色彩と構成による想像的絵画を制作しつづけました。しかし、1940年あたりを境にその画風は一変。別人のごとき画家・竣介の後半生がここから始まります。一連の写実的自画像に発する内省的傾向は、代表作《画家の像》や《立てる像》へと発展し、同時に身近な人物や都会の一隅を実写した精緻な作品が多数描かれました。一連の《Y市の橋》などはその典型といえるでしょう。軍国化へと急傾斜していった時代を背景に、その画面は暗く謎めいた静寂をたたえているかにも見えますが、画家はここへ来ていよいよ、絵画に対する熱い想いを深めてゆきます。そして敗戦後、今度は粗い筆致による抽象的画面が、独特の赤褐色の地色とともに突如、登場しました。しかし、この第二の激変の端緒にあって竣介は、1948年、病いに倒れあえなく36歳の若さで夭逝してしまいました。

本展は、昭和前期の日本近代洋画壇に重要な足跡を遺し、現在も尽きせぬ魅力を放ちつづけている画家・松本竣介の足跡を、生誕100年を機して大きく回顧する企画です。わずか20年ほどの短い画歴ではありましたが、遺された油彩や素描の数は多く、かつ驚くほど多彩な展開を見せています。新時代の絵画を求めて飽くなき探求を重ねたひとりの若き画家の人生を、本展では改めて、今日的な視点から見つめなおすことを目指しています。

目次

生誕100年 松本竣介展開催にあたって

作品編|Paintings, Drawings, and Sketchbooks

第I章|前期

Works from the First Half of the Artist's Career from 1927 to around 1941

I-1 初期作品|Early Works 1927-1933 

I-2 都会:黒い線|The City: Black Lines 1935-1936

I-3 郊外:蒼い面|Suburbs: Bluish Planes 1937-1941

I-4 街と人:モンタージュ|People in the City: Montages 1936-1941

I-5 構図|Compositions 1940-1941[-1948]



第II章|後期:人物

Figures from the Latter Half of the Artist's Career from around 1940 to 1948

II-1 自画像|Self-Portraits [1938-]1940-1945

II-2 画家の像|Portraits of the Artist 1941-1943

II-3 女性像|Female Portraits 1940-1946

II-4 顔習作|Studies for Faces 1941-1943

II-5 少年像|Little Boys 1941-1944

II-6 童画|Child-like Drawings 1943-1948



第III章|後期:風景

Landscapes from the Latter Half of the Artist's Career from around 1940 to 1947

III-1 市街風景|Cityscapes 1940-1942

III-2 建物|Buildings 1941-1942

III-3 街路|Streets 1941-1943

III-4 運河|Canals 1941-1943

III-5 鉄橋付近|Near the Railroad Bridge 1943-1944

III-6 工場|Factories 1941-1947

III-7 Y市の橋|A Bridge in Y-City 1942-1946

III-8 ニコライ堂|Nikolai Cathedral 1941-1947

III-9 焼跡|Burnt-out Ruins 1946-1947



第IV章|展開期

Works from the Artist's Turning Point at a New Stage from 1946 to 1948

IV-1 人物像|Figures: Black on Reddish Brown 1946-1948

IV-2 新たな造形へ:褐色に黒|Towards New Creations 1947-1948



資料編[1]|Related Works and Materials

風景写真|Landscape Photographs by the Artist

ノート・手帖|Notebooks

愛息・莞の絵|Drawings by the Artist’s Little Son

家族あて手紙|Letters to the Artist’s Wife and Son

書簡・原稿 |Letters and Scripts

展覧会|Exhibitions

本・雑誌の仕事|Works for Books and Magazines

『雑記帳』綜合工房刊|Zakkicho published by Sogokobo

アトリエ「綜合工房」|The Atelier Named “Sogokobo”



論稿編|Texts and Essays

「松本竣介の生涯と作品―素描作品を交えながら」加藤俊明

「自彊の画家・松本竣介」有川幾夫

「廃墟に立っている。―松本竣介の1940年代」水沢勉

「松本竣介のカルトン」加野恵子

「線の行方―松本竣介と「童画」」長門佐季

「ブッキッシュな竣介像―松本竣介の本・雑誌の仕事について」柳原一徳

「宮沢賢治は有り難い人だ」原田光

「墓参記―松本竣介にふれて」酒井忠康



資料編[2]|Documents

書簡・原稿 採録(図版掲載資料)

案内・目録・冊子 再録(図版掲載資料)

「松本竣介・論稿 再録」編:杉山悦子

(「昨今の絵画と明日の絵画(一)」、「人間風景」、「孤独(雑記帳)」、「アバンギヤルトの尻尾」、「黒い花」、「生きてゐる画家」、「芸術家の良心」、「残骸東京」)

「『雑記帳』総目次」編:加野恵子

「松本竣介・主要蔵書目録」編:小金沢智



「写真アルバム」編:柳原一徳

「事項解説」編:和田浩一・柳原一徳

「年譜」編:柳原一徳

「展覧会出品記録」編:柳原一徳

「文献目録」編:柳原一徳・帯刀菜緒



出品作品目録|List of Works

出品作品索引(制作年順)

出品資料目録



奥付

編集:

岩手県立美術館|加藤俊明、濱淵真弓

神奈川県立近代美術館|水沢勉、長門佐季

宮城県美術館|加野恵子、和田浩一

島根県立美術館|柳原一徳、帯刀菜緒

世田谷美術館|杉山悦子、小金沢智

NHKプラネット東北

NHKプロモーション

翻訳:小川紀久子

校閲:岩田高明

デザイン:梯耕治

制作:印象社

印刷:光村印刷株式会社

発行:NHKプラネット東北、NHKプロモーション ©2012*

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