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セタビブログ

2023.03.21

「中村恩恵カナリアプロジェクト 沈黙のまなざし Silent Eyes」活動報告その3

世田谷美術館で2022年12月から進行中の「中村恩恵カナリアプロジェクト 沈黙のまなざし Silent Eyes」。振付家・ダンサーの中村恩恵さんのコンセプトによる、異色のワーク・イン・プログレスです。当館のパフォーマンスInstagramにて連載中の記事より、第6回目・7回目をまとめてご紹介します。映像インスタレーションが公開され、中村さんのトークが行われました。クヌギの木は芽吹き始めました。

【中村恩恵|ワーク・イン・プログレス⑥】



本日、美術館廊下にて映像インスタレーションが完成。明日3/14から3/21までの公開です。写真2点は設営終了直後、17時頃に塚田美紀が撮影しました。プロジェクト同様、インスタレーションも夕刻の光がよく似合うようです。

会場に設置したごあいさつ文を全文掲載します。
「カナリアプロジェクト 沈黙のまなざし Silent Eyes」は、国内外で長く活躍してきた振付家・ダンサー中村恩恵のコンセプトによる、2022 年の冬至から 2023 年の春分にかけてのワーク・イン・プログレスです。

その経過を、ふたつの映像からなるインスタレーションとしてご紹介します。

アーティストが社会のカナリアー危機が訪れるとその声が聞こえなくなる存在ーになっていないかと自問し、この社会を生きぬく葛藤について考えたかったという中村は、世田谷美術館を見守るクヌギの木に思いを託し、プロジェクトを始動しました。

画家の泉イネ、写真家のトヨダヒトシがメンバーに加わって、クヌギを起点にそれぞれに踊り、描き、撮り、時に沈黙しながら語り合う、手さぐりの 3 ヶ月がスタートしました。プロジェクトを引き受けた当館学芸員の塚田美紀も、アーティストたちからメンバーの一員のように迎えられ、伴走しました。

月に 2 回、夕暮れどきに集まってクヌギの姿を見つめ、砧公園を散策後、夜の美術館の闇 のなかで中村が踊る。メンバーはそのようなルーティンを見出しました。この繰り返しの軌跡を記録し、映像にまとめたのは、写真家の今井智己です。

ひとつめの映像は、中村が美術館で踊る姿をとらえたものです。現場はこの廊下です。クヌギの木を壁に大きく投影するなかで踊り、それを今井が撮影。次に中村が踊る時には、前回のその写真を壁に投影し、また今井が撮影。回を重ねるごとに、踊る中村とその影が 4 人、 6 人と増えてゆき、写真のなかの闇はいっそう濃くなりました。

ふたつめの映像には、メンバーが初めてクヌギの下に集った日から、夕刻の散策を重ねてゆく様子がまとめられています。映像には、中村による言葉が添えられています。沈黙、葛藤をテーマとするなか、クヌギに身を委ねることで生み出された、ひとつの詩でもあります。

中村、泉、トヨダ、今井、塚田の 5 人は 3 ヶ月の間に数多くの言葉を交わしました。それ らもこのプロジェクトの重要な一部なので、「沈黙のまなざし 言葉の往来」と名づけ、皆 様に持ち帰っていただけるよう印刷物にしました。散策の映像の向い側に置いてあります。

散策の映像の先では、春の光にたたずむクヌギが、静かに待っています。 どうぞゆっくりご覧になってください。


【中村恩恵|ワーク・イン・プログレス⑦】


3/18(土)、中村恩恵さんのトークが無事に終了しました。

中村さんたちの手探りに伴走した学芸員の塚田美紀が聞き手となり、「沈黙のまなざし」というタイトルを持つ今回のプロジェクトがどのような経緯で始まり、メンバーと散策や対話を続けるなかでどのような発見があったのか、1時間ほど語っていただきました。

「沈黙」するということ。それを当初ネガティブなこととしてとらえていた、と中村さんはいいます。画家だったお祖父様が戦争により筆を折って、その後ずっと黙されたためでもあります。

でも祖父の沈黙があればこそ、長い時間を経たのちに自分がそれを引き受け、問い続けることが可能になっている。3ヶ月にわたるプロジェクトでそのことに気づき、すべては何らかの意味があることなのかもしれないですね、と中村さんは静かに微笑みました。

プロジェクトの最終段階で浮かび上がった「足りないもの」のことも少し話題にのぼりました。それは「沈黙とはかりあえる」ような言葉のことであり、中村さん自身が、闇の中から掴み出すほかないものでした。

沈黙に向き合うにせよ、言葉と対峙するにせよ、どちらも、ともすれば観念の檻のなかでの格闘になってしまいそうな作業です。

ですが、そこから中村さんを連れ出したのはクヌギの木であり、目には見えない地下深くに張るその根であり、踏めば柔らかな土や、カラスやモグラや虫たちであった、ということでした。世界を全身で感じることで開かれるものがあると。

恐る恐る掴んだ言葉はプロジェクトメンバーに差し出され、全員で一語一語確かめながら、最終形へと磨かれていきました。中村さんにとってはそれも初めての経験であったそうです。信頼関係がなければとてもできないことでもありました。

詩のようなその言葉は、散策の映像の中にそっと埋め込まれています。

アーティストと言葉というテーマについては、プロジェクトメンバーの最終活動日だった2/27の報告を書くときに、あらためてふれたいと思います。

「中村恩恵カナリアプロジェクト 沈黙のまなざし Silent Eyes」、廊下の映像インスタレーションは残すところあと1日。3/21(火祝)で終わります。

写真はトークの前に、塚田が撮ったものです。中村さんは静かにこの空間に身を置いていました。ほんの1、2分が永遠のように感じられることが何度もあるプロジェクトでした、とトークで語られたのも、印象的な場面のひとつでした。

M.T

投稿者:M.T

2023.03.21 - 01:00 PM