世田谷美術館では2003年より小学校4年生~中学生を対象とした夏休みイベント「ナイトツアー」を開催しています。コロナ禍の今年はオンラインで実施しましたが、それまでのナイトツアーはどのように行われていたのかを振り返ります。今回は2015年に『金山康喜のパリ』(2015年7月18日-9月6日)展に関連して開催したナイトツアー2015「金山さんとの約束」の内容をご紹介します。なお、この文は2015年に発行された当館ニュースレターに掲載されたものです。
2015年8月29日、夏の最後を締めくくる当館の名物イベント「ナイトツアー」が行われました。
このイベント、もともと当館のボランティア=鑑賞リーダーからの提案で始まりました。動物園で夜に活動する動物たちを見るのと違って、窓もない美術館の展示室というのは、昼だろうが夜だろうが、基本的に変わりはないのです。違いがあるとすれば、他にお客様がいないこと。つまり、貸切であることです。
鑑賞リーダーからよく聞く不満は、子どもたちを案内するときに感動の声すら遮らなければならないこと。さわっちゃいけない、はしっちゃいけない、大きな声でさわいじゃいけない、この3大タブーのうち、3つ目だけは夜の美術館では許されるのです。年に一度、思いっきり子どもたちに美術館を楽しんでもらうのが、当館のナイトツアーです。ゲーム感覚で謎を解きながら、作品の本質を味わっていく、という特別な鑑賞ツアーなのです。
では、2015年のナイトツアーを紙上ドキュメントでご体験いただきましょう。
18:30 ナイトツアースタート!参加者は事前に募集した小学4~6年生45名。閉館後、受付で名札をもらって講堂へ。同じ色の名札の4,5人で1グループとなります。
18:40 展覧会紹介ビデオの怪まずは、開催中の『金山康喜のパリ』展の紹介ビデオを見ます。展覧会の担当学芸員が金山の作品と人生を語ります。「33歳という若さで死んでしまった金山さんはどんなに無念だったでしょう。きっと、もっともっと絵が描きたかったに違いありません・・・」。すると途中で突然、画面が乱れ、薄暗い部屋に人影らしきものが映ります。「・・・ぼくはもっともっと絵を描きたかった。子どもの頃からやりたいことをちゃんと考えておけば良かった」と独白するこの人物は金山の亡霊でしょうか? 彼は、紙を破っては名札のようなものに詰め込んでいます。いったい何をしているのでしょう?
18:50 第1の謎会場に明かりが戻るやいなや、子どもたちは自分たちの下げている名札を見ます。さっきのビデオで謎の人物が何かを入れていたのはこの名札じゃなかっただろうか?
中を探ると紙の破片が。グループ全員の紙片をつなぎ合わせると美術館の地図が現れました。
第1の謎
19:00 金山の亡霊グループにひとつだけの懐中電灯を頼りに、真っ暗な館内を地図の指示通りに進んでいくと地下のある部屋にたどり着きます。部屋に入ると、先ほどビデオに写っていたのと同じ人影が・・・。その人物は無言のまま、彼らに封筒を手渡します。
金山の亡霊
19:10 指示書の解読封筒にある指示に従い、手に入れたカードキーで関係者以外立入禁止のバックヤードの扉を開けます。いよいよ美術館の裏側へ。
指示書の解読
19:20 夜の美術館夜の美術館のバックヤードには怪しい人たちがたくさんうごめいています(もちろん、演出です!)。バックヤードでは、巨大エレベーターや収蔵庫、秘密の扉などを守る「番人」たちからの数々の難題をクリアし、キーワードやアイテムを手に入れて、展示室まで進んでいきます。
収蔵庫の番人
19:40 金山の亡霊への誓いついに展示室。金山康喜の絵に描かれているモチーフをすべて集め「最後の扉」を開けると、そこに再び金山の亡霊が現れ、「君たちが33歳までに叶えたいことをぼくに誓ってくれ」と言います。ひとりずつ「わたしは絵をたくさん描きます」「ぼくはサッカー選手になります」「結婚して子どもを3人持ちます」など、夢を声に出します。「早くに目標を持ってがんばれば、きっと叶う。君たちは悔いのない人生を生きて」と金山の亡霊は子どもたちにメッセージを伝えます。
金山の亡霊への誓い
20:00 エンディング全員が金山への誓いを終えると、明かりが付きます。既に金山の姿はなく、彼の作品だけが並んでいます。子どもたちは金山が33年という短い人生の中で、魂をそそいで描いた作品をじっくり鑑賞するのでした。
ゲームクリア後の作品鑑賞
余談ですが、金山の亡霊役をやった某学芸員は、当初嫌々引き受けたものの45人もの子どもたちから真剣に夢を誓われ、思わず感涙したそうです。
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