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昔から「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、なるほどしかり、にわかに春の気配がたちこめてまいりました。砧公園の木々もいっせいに芽を吹き、あとは桜の開花を待つばかりとなりました。その砧公園にある世田谷美術館では、現在、「岸田吟香・劉生・麗子展」を開催しています。最終日は4月6日ゆえ、とてつもない苦労を重ねて作り上げたこの企画展が、残すところわずか2週間で閉幕となってしまいます。
何やらとてもお名残り惜しい気持ちになってしまいます。皆さま、どうかお見逃しなく。
この展覧会、展示室に入ると最初の部屋に劉生の〈麗子像〉が8点、並んでいます。どの作もみな、劉生が心血を注いで丹念に描き上げたもの、不思議な魅力をたたえた童女像です。劉生はまさに、独特というほかない特別な次元を生きた洋画家でした。だからこそ、今日に至るまで多くの人がこの画家に魅せられてきたわけです。そうした魅力の根源に、父・吟香から受け継いだ反骨の精神があったとするのは、おそらくまちがいのないことでしょう。自分の眼で見て、自分の頭で考えて、自分の手で何かを掴みとってゆく。これと信じた道をたゆまず自由に、前向きに進んでゆく精神です。けして平坦ではない道も、恐れず歩いてゆく勇気、そういうものを感じさせてくれる画家、それが劉生です。
春の訪れとともに、そんな精神の一端に、皆様も是非、触れてみてください。歴史上の巨匠になった劉生とは、またひとつ異なる人間・劉生の姿がまぢかに見えてくる、本展はそんな展覧会です。
画像:本展会場、第1室 「童女像…麗子と於松」の一角
photo by Norihiro Ueno