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毎年正月が近くなると、無性に、京、奈良の空と風土が恋しくなって出かけてゆく。観光客はいないし、もし出会ってもやはり静かさを愛する人たちばかりで、大原の里も、鞍馬の門前も、嵯峨の竹藪も、おだやかな冬空に淡い紅葉の色を滲じませて、そのままじっとすわりこんでみたいような魅力を感じる。
これは、向井潤吉(1901-1995)の言葉です。京都市下京区生まれの向井にとって、「そうだ 京都、行こう」と思い立つのは、ちょうど今の時期だったようです。
紅葉でにぎわう季節を終えて一息ついた京都は、冴えわたる空気の中で別の美しさを見せます。静けさを好んだ向井は、冬の京都、それも街中ではなく山間部の民家を主に描いた油彩画を138点残しています。 京都の伝統的な建物といえば町家が有名ですが、周辺の農村地帯には、この地方独特の伝統的な茅葺き民家の集落が残っているのです。
丹波地方の民家の特徴は「入母屋造(いりもやづくり)」にあります。入母屋造とは、屋根の形式の一つで、上部は切妻(きりづま)造りのように二方へ勾配(こうばい)をもち、下方は寄せ棟造りのように四方へ勾配をもつ屋根型のことです。
京都府船井郡丹波町に取材した展示作品《奥丹波の秋》(1969年頃)(写真参照)のように、屋根が途中で形を変えるのが特徴で、寺院などに多いそうです。
今回の展示では、向井潤吉がアトリエとして利用していた土蔵の展示室1階に、入母屋造の民家が8枚展示されています。朽ちかけた屋根、雪をかぶった屋根、軒先に洗い物が見える屋根など、様々に表情を変える入母屋造の民家をお楽しみください。
同じく土蔵展示室1階には、向井潤吉が京都市内の関西美術院で絵画の基本を学んだ10代の頃に描いた、人物画の素描と油彩画が、2点ずつ展示されます。向井にとって京都は、少年時代を過ごした原風景であるだけでなく、画業のふるさととも言えます。
京都で絵を学び、やがて日本を飛び出しシベリア鉄道でヨーロッパに渡り、ルーブル美術館で摸写を重ねることによって西洋美術を学び、その後、生涯のテーマとなった民家を描くため、ふるさとの京都に再び足を運んだ向井潤吉の画業を、作品とともに辿って下さい。
なお、年末年始は12月29日~1月3日まで休館いたします。
新年4日から、来館者先着200名様に、向井潤吉の絵葉書をプレゼントします。お誘いあわせの上、ご来館下さい。
「向井潤吉とふるさと・京都」開催中~3月20日(水・祝)
10時から18時までご覧いただけます(入館は17:30まで)
「向井潤吉アトリエ館ホームページ」