Ars cum natura ad salutem conspirat

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難読でも、漢詩でもなく


4月28日の駒井哲郎展開幕で、当館もグランドオープンと相成ったわけです。

これに先行して3月31日から、2階展示室で「白と黒の会の仲間たち」という展覧会を開催しております。昭和初期、小田急や東急、京王などの私鉄開業当時、若き美術家が世田谷に集い始めました。その頃、皆さんおおかた30代から40代のはじめ。官展系あり在野あり、日本画あり、洋画あり、彫刻あり、編集者あり、新聞記者あり、文筆家ありと多士済々。やがて知り合いとなり、言葉を交わすようになり、酒を酌み交わす間柄になるうちに、彼らは究極の循環システムを開発していきます。

某所に集まっては一献かたけながら、肴の小皿を脇によけ、小さな白紙に墨やインクで何やらを描く。これを仲間の記者や編集者が、新聞や雑誌のカットとして自社で売りさばく。そして資金が調達されますと、またまた集いが催され、一献かたむけながら白紙に墨とインクで腕をふるうわけです。楽しみと実益が幸福な出会いを果たし、尽きぬ語らいの時を彼らはもったわけです。宴席をよさない限り、この愉快な循環は続くわけです。


そうしたある宴席で「墨かせ、筆かせ」と戯れあいながら、大いに楽しくしたためた寄せ書き(複製)を、この展覧会ではご披露しております。

その中に、洋画家・松本弘二さん(1895-1973)が、「大井尓槍眞升」という漢詩めいた一文(部分写真)を描きこまれています。

先日、松本弘二さんのご令嬢が来館され、はてさて、この「大井尓槍眞升」は如何なる読み方で、如何なる意味合いかとのお問い合わせをのこしていかれました。

その場、私はあいにく不在にしておりましたが、さっそくこの件について、「私としては、オオイニヤリマショウ、と読みたいところです」とお手紙を差し上げました。


宴たけなわの酒席。大判の紙を畳に広げ、「ヨシッ、次は俺の番だ」と腕をふるう若き美術家たちの楽しいひと時が、この寄せ書きにはしみわたり、写しとられているようです。


元気をもらえます。「オオイニヤリマショウ」。いい言葉ですね。


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