Ars cum natura ad salutem conspirat

「イタリアの部屋でみる夢」 ある日のこと-3


世田谷美術館では、25年前の開館以来、区内の小中学生を大勢迎えてきました。

区立の小学校は64校ありますが、4年生になると、全員が「鑑賞教室」という授業の一環で、世田谷美術館を訪れています。

今年は世田谷美術館が7月から工事休館になることから、5月10日から6月末までの期間をフルに活用して全校を受け入れています。

世田谷美術館では400名を超える方が、鑑賞ボランティアとして登録されており、それぞれ都合のつく日に子供たちのために時間をつくり、数名単位のグループを引率して館内を巡ります。

あれこれと言葉をかわしながら、作品を観たり、建築を楽しんだり、美術館の庭に点在する彫刻を観て歩くなど、まるごと美術館を楽しんでいるのです。


5月某日。その朝も子供たちがやってきました。あいにくの雨。

2階展示室で開催している「イタリアの部屋でみる夢」を中心に鑑賞が始まりました。

グループに寄り添って、子供たちの会話を聴きとっていると・・・

展覧会会場に入るとまず、カポグロッシの作品が目に入ります。

「なんで無題なの?」

「動物みたいな感じにみえるよ」

「ぜ~んぶ、これかんざしだね」

「ガイコツにも見えるけど、タマゴがわれちゃっているみたいで、なんかカワイイ」

わずか5秒ほどで、ガイコツからタマゴ、そしてカワイイとイメージを展開する子供たちに驚嘆。


次に見えてくるのは、クレメンテの《ふたつの大地》。

大きな壁に、ちょっと見上げるように展示されています。

「おっ! きのこの山だね」

「色がきれい」

「どっからどこまでが区切りで、ふたつの大地になるの?」

「半分に切っちゃえば、もっとわかるよ 真横?ななめ?」

「切ったらだめ。つながらなくなっちゃうよ」

と、作品保護や保存に対する思いかしら。


そして、ド~ンと壁面をかざるキアの《ペルゴラ》の前では。(ひとつめの写真)

「デッケェ~! スゲェ~!」と、まずは素直な印象。

ついで画面のあちこちに目を配り始めると。

「この二人、葡萄のことでもモメたのかな~。剣、持ってるし」

「ブラックホールだな、あそこは」と指をさす。

「ブドウ棚の中にも人みたいなのが見えるよ」

「どこ、どこ?」

と、謎が謎をよんでいます。


展示室の壁にはりめぐらすように展示してある、クレメンテの《アルゴ船隊員の出発》、全48点。

「いっぱいあるねぇ~。ぜんぶそうなんだ。お話、ぜんぶ続いてるの?」

「日の出みたいに爽やかな絵だね」

「おっとりした色がいいよ」

「なんか魂が泳いでいるみたいだ」

「絵じゃない文章は英語? オレ、コレ読めねぇ~」

と、さまざまな印象が飛び出します。


パラディーノの《無題》(白)。ちょっと高めの位置に展示されています。(ふたつめの写真)

作品を見上げるように、床に座り込む子供もいます。

「ふつうの絵と形が違うね。六角形だよ」

「ちがうよ、八角形、八角形」

「ほんとだ」

「四角い絵じゃないんだ。なんで?」

「面白いからじゃない?」

「枝が貼ってあるから、立体的に見える」

「枝、ヘビみたい。ヘビ使った、なんかの儀式みたい。儀式してるんだよ」

「白は雪みたい」

「ちがうよ、白いゴハンだよ。お茶碗持って、枝のお箸もってるの」

「ごはん食べてるんだから、これは家だよ。あそこが台所だね。これ、完全に家だよ」

と、トントンとイメージが広がっていきます。


展示室のあちらこちらに展示してあるファッツィーニの作品。特に人気が高かったのは《風の中の女》。

「これ、男の人だったら気持わるいかも・・・」

「これなに? 布? 風になびいている布だね」

「ぐるぐる回りながらみると、面白いね」

「すきまからのぞくと向こうが見えるよ。このすきまに風が吹いてるのかな」

「これが気に入ったよ。やっぱりこれだよ」


同じくファッツィーニの《背を掻いている猫》の前では。

「このネコ、シッポで背中をかいているよ。足は耳をかいている。これ、題、ちがわない?」

そして壁に映った彫刻のシルエットを見て。

「この影、ラクダに見える。尾っぽがラクダのコブになってるよ」

なかなか鋭い鑑賞力に敬服。


そして出口あたりに展示してある、クッキの《月の旅》。(みっつめの写真)

「ソラマメみたいに並んで、船に乗っているね」

「みんな不安そうだよ。せっかく月に行くのに」

「顔が転がっているよ、コワイな」

「この絵、あんまり見たくいない・・・」

「ほんとは地獄に行くのかも」

「でも、もしこれ天国に行く絵だったら、みんなの顔、楽しそうになるのかな」

と、ちょっと不気味な雰囲気をもつ作品は、怖いもの見たさのような感想が出てきていました。


子供たちが、こうした鑑賞の場を持ちながら、作品からそれぞれの想像を広げている風景は、とても面白く、楽しいものです。

にぎやかといえば、にぎやかで、静かに作品を観ようとする妨げにも思えます。

けれども、わざわざにぎやかな子供たちの声を聴きながら、そんなふうにみえているの?って思いながら展示室を歩くのもまた、セタビで味わえる一つの楽しみかもしれません。

6月30日まで、開館直後から11時くらいまでの時間帯。

セタビの展示室は、子供たちの想像で満ちあふれています。ちょっとニヤッとしに、お越しになりませんか?


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