Ars cum natura ad salutem conspirat

建築家・内井昭蔵 -1-


内井昭蔵という名を聞き、即座に「世田谷美術館の設計者」と想起される方は、そうとうの「セタビ通」とお見受けします。緑多き砧公園の中に佇む世田谷美術館は、自然との融和、自然との同化といった考えかたを豊かにふくみ、そして「生活空間としての美術館」というコンセプトによって設計されました。そこには内井昭蔵がしばしば言葉にした「自然の秩序」が、色濃く反映しています。開館23年目を迎えた世田谷美術館という建築の相貌をつぶさに眺めると、砧公園の木々とともに生き、相応の年輪を重ねてきたのだと、しみじみと感じます。建築が歳月をかけて周辺環境と呼応し蓄えていく風格を、内井昭蔵は深く、そして大きくイメージして設計を進めたのだと思うのです。


当館は目下、その内井昭蔵(1933-2002)の設計活動に焦点を当てた展覧会を準備しています。

内井昭蔵は建築に深くかかわる「祖父」と「父」をもち、いわば「つくりて」としての血脈を引き継ぐ人でした。祖父・河村伊蔵はニコライ堂(神田駿河台)を創建した聖ニコライに仕えた正教会の聖職者であり、かつ、函館や豊橋のハリストス正教会の建設に深く携わりました。そして父・内井進も大正から昭和にかけて銀行建築などを中心に設計を行い、教会建築も手がけました。


このたびの展覧会、〈内井昭蔵の思想と建築〉では、彼の「祖父」と「父」が遺した建築家としての軌跡を顧みることを序章とし、内井の35年間にわたる設計活動を回顧します。内井は菊竹清訓建築設計事務所から独立後、約250の建築を竣工させました。本展ではその中から約100作品をとりあげ、それぞれの建築の多彩な造形を通じて、内井昭蔵の建築家としての、そして人としての思想を探っていきたいと考えています。

 世田谷美術館を設計するにあたって内井昭蔵は、公園の中にある美術館であることを強く意識し、建築の各所で人々が自然とかかわるための仕掛けを施しています。


 今回の展覧会では、内井昭蔵が世田谷美術館に付与したさまざまなデザインを活かしながら、より深く彼の設計思想をお伝えできる展示を試みたいと計画しています。展覧会は12月12日に初日を迎えますが、それまでのあいだ、展覧会にかかわる情報を幾度かにわけ、このブログを通じて皆様にお届けしてまいります。


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