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みなさん、「拓本」という言葉をご存知でしょうか?
拓本とは、濡らした紙や布を、凹凸のある石碑や器物に密着
させ、その上からタンポに含ませた墨を打ち、表面の文字や
文様を写し取ったものです。
画家、利根山光人(とねやま・こうじん、1921-1994)は、
昭和30年に東京国立博物館で目の当たりにした「メキシコ
美術展」にすっかり魅せられて、その4年後には実際にメキシコ
に渡り、さらに3年後、秘境ボナンパクとパレンケ遺跡、ユカタン
半島のマヤ遺跡を訪れて多くの拓本を採集しました。
この夏の収蔵品展では、「利根山光人とマヤ・アステカの拓本」
展と題して利根山の油絵と版画合わせて21点と、拓本48点を
展示しています。(2009年7月16日~9月11日)
1963年に、東京国立近代美術館の「マヤ芸術の拓本展」で
初めて展示されて以来、およそ半世紀ぶり、2回目のお披露目
になります。
マヤ・アステカといえば、言わずと知れたメキシコの古代文明。
マヤ文明は紀元後300~1500年頃、アステカ文明は紀元後
1300~1500年頃、それぞれ栄えた文明です。どちらも高度な
建築技術を持ち、神殿や僧院には、王朝の歴史や当時の儀式
を伝える壁面装飾がさかんに刻まれました。
利根山光人は、そうした装飾の拓本を次々と採取していきました。
ひとつひとつ、手の感触だけを頼りにイメージを浮かび上がらせて
いく作業は、芸術家というよりも、職人的な営みだと感じる人もいる
かもしれません。
ただ、大きなもので高さが4m近くもある拓本を見ていると、
マヤ・アステカ文明の壮麗な壁面装飾を何とか紙の上に定着し、
日本に持ち帰ろうとした利根山の情熱が伝わってきます。
そして、拓本に採られたさまざまな模様からは、今から千年
以上も前に高度な文明を築き、自分たちの歴史を石に刻み
後世に残そうとした人々の鼓動が聞こえてくるようです。
外の厳しい暑さを逃れて、拓本で覆われた展示室に
しばし身を置けば、遠い異国の古代文明が、きっと身近に
感じられることでしょう。