Ars cum natura ad salutem conspirat

ギマールのアパルトマン貸します!


この秋に開催予定の「オルセー美術館展パリのアール・ヌーヴォー」では、アール・ヌーヴォーの建築家としてエクトル・ギマールを紹介するコーナーがあります。パリのメトロのあやしくも不思議に魅力的な入口をデザインした建築家です。


パリ16区は、ギマールによるアール・ヌーヴォーの建物が現在も多数残る地区として知られていますが、その中でも最も有名なのが、「カステル・ベランジェ」と呼ばれる集合住宅です。


ギマールは、この建築によってパリ市ファサード・コンクールで受賞し、建築家としてのスタートを切りました。この建築がなければ、パリのあのメトロの入り口はなかったことになる、という重要な建物です。


たしかに、柔らかなカーヴを描く鋳鉄の門扉、入口ホールの少々おどろおどろしい陶器製の壁、ステンド・グラスなどそのディテールは、若きギマールの才能が遺憾なく発揮されていて、歴史に残る名建築であるのは間違いなく、見ていて飽きません。今回、このギマール建築の紹介のため、撮影に行ってきました。

カメラマン、コーディネイター、アシスタントと4人で「カステル・ベランジェ」の独特の外観の前に立つと、その正面3階の窓には、「貸室あり」の表示が・・・。すかさず、書かれた電話番号に連絡をいれるコーディネイター女史。


不動産屋さんによると、今回は3室空きがでたが、そのうち、2つはすでに契約が進行中。残る1室は、まだ交渉可能とのこと。その物件は、6階で100平米(広い!)。もちろんバスとトイレは2つ?内装は、ほとんど新しくなっているものの、天井付近にはギマールのディテールが残されているとか、いないとか・・・。


集合住宅とはいえ、かの「カステル・ベランジェ」に住めるそのお家賃は?1か月2800ユーロ、礼金、敷金それぞれ1カ月。パリにもそんな制度があるのですね。ということは、月約40万円程だすと、この名建築の住人になることができるのです。


それこそ世界中からやってくる建築の専門家、学生その他の垂涎の視線をあびながら、自分だけがあの門扉の奥にある、第二の扉を開けて美しい中庭を通り抜け、ギマール製のドアノブでドアを開けて自室に入ることができる。このドアノブだけでもオルセーに展示してあるくらいの芸術品です。


パリ在住の方にいわせると、このお値段は、この地域にしてはまあそれなりの値段なのだとか。つまり、ギマールだからといって飛びぬけて高いわけではないそうです。3人くらいでシェアすれば、そう手の届かない値段でもない?


しかし指定文化財に住むのは、釘ひとつ打てず、いろいろやっかいかもしれないなどと、真剣に考えた私は外壁のタツノオトシゴに笑われてしまうかも。


写真:

エクトル・ギマール カステル・ベランジェのエントランス内観


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